thatcher | long island sound

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3.20 散歩道


今便所に行ってきたが、その途中でふとある事実に気付いた。よくある話だ。便所の中では何か頭の回転を加速させて、視界をはっきりさせるようなものがある。特殊な臭いと一緒に空気を漂っているのだ。


俺にとってthatcherのような環境が最適だったんじゃないかって、さっき思ったんだ。今更そんなことを言ったって何の意味もないし、それに気づいたことで特に何かが変わるというわけじゃないが、とにかく勉強をするんだったらそのようなところが一番だろうと思う。


第一、友達と話せる。友達がいればどこでもいいという訳じゃないが、とにかくある環境を話すんだったらそこにある人々もやはり大事な役割を果たすことになる。役割という表現が適切かどうか(いささか冷淡すぎるのでは)は措いといて、とにかく一緒に飯を食べに行ったり、話したり、遊んだりするのが大切だろうと思う。皆と一緒に暮らすことができて楽しかった。


それが一番で、それに比べて他のことが単なるプラスαでしかない。門限はないし、空気がおいしいし、散歩も最高だ。夜まで食堂では殆ど食べ放題と変わりがない。味はあまり高く評価されていないが、俺にとっては普通に食えるし、今の俺の食生活よりはずっと増しだ。食堂が閉まると販売機しかないというのは困るけど、たいした問題じゃない。屋内プールも近くにあるし、夜中になると人気のない道をジョギングするのが楽しいし、健康も保ちやすい。それに比べたら今の状況があまりにも酷すぎる。門限の所為でジョギングはろくにできないし、近所にある屋内プールと言えば徒歩30分も離れたところしかないし、どんな時間でも先客で混んでいて気楽に泳げない。


でもthatcherで勉強しようとしていた時だってそれなりに切ない思いをしたけどな。友達が映画に出かけたりしたら羨ましくなって落ち込んでしまったりして。今振り返ってみると馬鹿みたいだけど、当時は些細なことで結構落ち込んでいたんだな。でもそう言えば、ロングアイランドでのひと夏以外は俺の人生のどんな時にだって同じようなものだったよな。中学校の頃は勿論、特に高校の頃が酷かったよな。


まあ、とにかくthatcherはいいところだった。でも残念ながらもう戻れない。皆が留学から帰ってきてもさっちーは卒業しているだろうし、光一が留学に行っているかもしれない。それに俺はもうあそこにはいられないんだ。いられたとしても一年が経ったら俺の知っている人の殆どは卒業してしまう。要するに俺のthatcherはもう存在しないのだ。悲しいというか、それが現実だから仕様がないんだよね。


日本で同じようなところもないだろうし、探す気にもならない。新しい友達を作ろうとも思わない。もう一人で勉強をすることにはいい加減に慣れている。留学は見事に失敗してしまったが、それが嫌なら今度日本に来るんだったらもっと勉強に集中することだ。近くにまともなプールがあるところに住んで、授業のとき以外はなるべく一人で修行する。身体を丈夫にし、勉強を重ねる。週末はバーに出かけて会話練習をする。特定された場所での限定された人間との触れ合い。平穏無事な生活。