修羅場と化す | long island sound

修羅場と化す

やったぁー!YES!! Thank you, God!! ハハハハ、やったぜ!


今は本当に、ホントに嬉しい。最高に嬉しい。5分ぐらい心に染み込むような、腰のある達成感をじっと味わって、ワードを開く。ほら、ひ・ら・く!ハハハハ、実に良い。


何があったかというと、勉強をしながら辞書のソフトで単語を調べようとして、キーボードを見ずにキーを押していたら、何かの間違いでキーボードの入力設定が狂ってしまった。キーの表面に書いてある仮名をそのまま入力する(例えば「A」のキーを押せば「ち」がでてきたりして)ようになってしまった上に、「789UIOPJKLM」というキーを押しても何故か数字しか出てこなかった。俺のバイオのキーボードでは、そのキーには金色で数字が書いてあるが、入力方法をどうやって換えるかが分からず、問題を解決するべくヘルプの検索機能を使おうにも使えなかった(そのキーを使わずに「キーボード」、あるいは「自殺寸前」を入力することができなかったから)。元通りにする為に30分もヘルプを読んでみたが、謎の金色文字については何も書いていなかった。


俺は自分のことを(少なくともパソコンに対して)割と我慢強い人だと思っている。たとえどんなに悩まされてもスクリーンを叩いたり、パソコンに向かって叫んだりはしない。キーボードはいつも一定の強さで打つ。でもこの時はさすがに参った。一瞬怒りと挫折でこのポンコツバイオを窓から放り投げようとさえ思った。しかしそれはいけないことだ。バイオは甥じゃない。それを2階の窓から放り投げては決して許されないことだ。


半分パニック状態で、キーを無闇に押し始めた。幼児がテーブルに座って不器用に手を上下して卓上を叩くように、キーボードをぶちのめした。俺の力の前では抵抗は無意味だ、降伏しろ、といわんばかりに、酷い打撃を繰り広げた。


それが数分続いたところで、バイオはさすがにくたびれていて、もう少し素直になっていた。それから俺は二つのキーを同時に押してみたりした。Ctrlを押し続けながらキーボードを上から一列また一列、左から右へと押しつぶしてみた。そうすると実にいろんなことが起こる。暇な方はどうぞやってみてください。ワードが面白くなります。


とにかくそれを続けてみたらAltでやった時にやっと元に戻った。Alt。オマエは俺の仲間だ。


今日はイースターだそうだ。クリスチャンの新寮生(一言、変人)が復活祭の礼拝に誘ってくれたが、勉強のこともあって断った。礼拝なんてもう何年間も行っていないし。


イースターといえば、俺のうちでは皆が集まって豪華なポーランド風の朝食を食べるのだ。茹で玉子やらサンドイッチやら3,4種類の腸詰やら、結構派手にやる。それ以外は特に何もしないが、姉はいつも卵を塗ったり、イースターエッグハントを実行しようとしたりする。テンションの低い一家の中で彼女だけはいつも場を盛り上げようとしている。何故あんなにしつこく流れに逆らうのか、俺にはさっぱり理解できない。復活祭には無理矢理にエッグハントをする。誕生日にはプレゼントを贈る。クリスマスに飾りをつける。勿論誰も彼女にそんなことをして欲しくなければプレゼントも欲しくないが(しかも文字通り最悪のプレゼントを贈るのだ。母に「永遠の若さ:完全シワ対策」という本をあげたことを覚えている。そういう嫌味っぽいものか訳の分からないものばかりだ。その99%は本だ。彼女はまさか本人がそれを読むなんてことは思っていない。タイトルの為の本だ。)、それでも姉はやめない。


姉のことを考えると、次はいつも甥のことを考える。今はどうしているものか。大体の想像がつく。おそらくテレビゲームに熱中していたところを姉に引っ張られ、エッグハントをさせられているだろう。もっと若い頃はイースターで興奮したりしていたかもしれないが、10歳にもなってそれはオンボロの祝日でしかないということに気付いているだろう。なにしろクールな男だ。甥は時にすごくむかつかせてくれるが、基本的にあいつのことは好きだ。いつかは俺を越えて、殺してもらいたいものだ。期待している。


テレビゲーム。甥は可哀想だな。テレビゲームをする権利は尊いものだ。それに蹂躙する資格は姉にはない。それができる人はこの俺だけだ。「どけぃ!」と彼を蹴飛ばして、彼の頭で2階の窓がバシャーンと粉々に割る。放物運動。2回のバウンド。


テレビゲーム。この頃大人たちに激しく批判されているとやら。俺の2度目のホストファミリーのオトウサンも、それが最近日本の若者の堕落の原因の一つだと言っていた。空想の世界で、時間の無駄遣いで、やり過ぎると価値観が狂い、現実を受け入れることができなくなってしまう、というのは彼の意見だった。そして娘もファミコンが欲しいなんて僕に一度も言ったことがない、と彼はいかにも得意気に言った。「僕だってよくやりましたよ。そして今となっても全然平気」That shut him up. そう言ったら俺を直接責めるしか反論の仕様がなくなる。Brian 01 – Otousan 00.あの時はもうホームステイが終わると分かっていたので、彼の偏狭さに対して我慢することはなかった。


確かにテレビゲームはくだらない。何百、何千時間もやっているうちに貴重な時間が無駄に過ぎ去ってしまうだけだ。その時間でスポーツとか勉強とか、或いは単に友達と遊んだりしていたら、多くのものを学び、どんどん成長していくことができたのに。残念だな、と大人は思う。


でもテレビゲームって、楽しいんだよ。それはそれで良いんじゃないかと俺は思う。甥が好きなだけやれば良い。或いは何かしたいものが見つかったら、彼はあんなに多くの時間を無駄にしたことを悔しがるかもしれない。俺だって日本語を勉強し始めてから何年間はそう思っていた。畜生、あの時間を使って勉強していたら…!と。でも当時はそうじゃなかった。


週末は朝早く起きて、シリアルを2階のテレビの前まで運んで、ワールドマップを移動しながら朝飯を食べた。そして昼になったらピザを食べに行って、帰ってきたらまたやった。暗くなったらもう一度外食した。昼はピザだったならば夕飯には必然的にチャイニーズフードということになっていた。そして食べ終わったらまたゲームに取り組む。眠くなったらセーブして電源を切り、コントローラを丁寧に片付けてから三階に上ってベッドに潜り込んだ。そして思った。「今日は結構進んだな。もう少しで新しい技を取得するかも」


結局俺はこんなになってしまった。欠陥商品。駄目人間。テレビゲームの所為だったかどうか、それは誰にも分からない。でも本人としては、人生をやり直すことができても、やはりまたテレビゲームで遊ぶと思う。何回リセットしても同じようなことをすると思う。


その理由を訊かれても困る。でもとにかく人生の何年間をテレビの前で過ごしたことはあまり後悔していない。自分のことが根本的に好きだからだと思う。愚かで人間の失格だ。でもどことなく面白い奴だ。You can’t hate the guy.