Period! | long island sound

Period!

本当は書きたくなんかないけど、筆記しておきたいことがあって仕方なくブログを更新することになった。


今日神社の前を歩いていたら蝉の鳴き声が聞こえた。ただそれだけだ。


蝉の鳴き声は春の到来を意味するとどこかで聞いたことがあるような気がする。或いは夏の到来だったかもしれない。今一確信が持てないが、とにかくそのいずれかを告げているから、書き留めようと思った。


夏か春か、調べようと思えば簡単だが、いざとなるといつも東京のオトウサンのことを思い出してやめる。


何故彼のことを考えるとそうなるのか、と自問する。分からない。でも散歩の続きをしながら仮説を提起してみた。結論から言うと、誤解されるのに一番手っ取り早い方法とは、まず口を開くことだ。オトウサンとの短い付き合いから学んだことがあったとしたら(この場合、「万が一」という表現より正確な言い方はなかろう)、実にそれだと思う。


で、それが蝉のこととは何の関係があるかというと、実はあまりないと思う。


でもまあ、それじゃ話にならないから、適当なこじつけで因果関係を無理に作ってみよう。


例えば、俺がバーに行って、カウンターに座って注文したとしよう。バーテンとカンタンな会話を始めて(ここは何時までですか、とか)、周りの人に日本語は少しできることを見せ付ける。そうすると、その中に外国人と話したがっている人がいれば、そいつは必ずやってくる。そうでなければ少し後バーテンは声をかけてくれるはずだ。それでも駄目だったら一杯飲んでから梯子して、次のバーで試してみる。それがいつものパターンで、会話練習をするのに一番確実な方法だ。1ヶ月近く酔いっぱなしだった俺が言うには間違いないと思う。


そうやって会話が始まる。最初の20分ぐらいは必ず俺の話になってしまう。どんなに嫌がっても初対面の人ならいつも同じ質問に答える羽目になる。その答えを事前にプリントアウトして、プリントを持ってバーを巡る方が幾分楽だろうが、勿論そうするわけにもいかない。だから退屈しないようにバーによって違う返事をすることにしている。質問を順番に書けば大体次のようになる。


① なんでそんなに日本語がうまいか。(厭味に聞こえるが、逆に訊かれないときは不安になったりもする。馬鹿ねぇ~)
② どこで、何年間日本語を習ったか。(これについてだけは本当のことを言う。日本に来て最初の数ヶ月、人は俺の変事を聞くなり愕然としてしまったが、月日が経つにつれてそのびっくり度がどんどん下がっていく。日本で生活している時間が長くなっているくせにあまり上達してないからねぇ)
③ 本当か。
④ どこの出身か。(ニューヨークと答えると、反応は必ずこうだ。「ニューヨーク…(1.6秒)カッコイイねぇ」100%間違いなく、どんな人間でも必ずそんなふうに言うのだ。まさか、とあなたは思うかもしれないが、これは誇張じゃない。日本人の間には多少の差はあるにせよ、この一点を中心に一つの民族は繋がっているんだなと、つい感心してしまう)
⑤ 日本で何をしているか。
⑥ 何で日本に来ようと思ったか。
⑦ 日本はどう思うか。


大体そういう感じかな。そんなどうでもいいことに20分も費やしてしまうと思うとさすがに嫌気がさすが、バーで会話練習をしている自分の方が悪いし、それが一通り終われば次は楽しい話が始まるという時もあるから(今考えてみるとない方が多いような気がするけど)、一応我慢する。


で、これは蝉のことと一体何の関係があるか、と貴方は思うかもしれない。


Hey, fuck you, buddy. 黙って聞いてろ。それができなきゃ出ていけ。


Christ!


とにかく、20 questionsが終わったら今度は何か別の話をする。そして暫く話してから、遅かれ早かれ沈黙がやってくる。相手によってそれが来るまでの時間とその性質は異なる。10分も経っていないうちに会話が破綻して気まずい二人の間に沈黙が生じるときもあれば、2時間目を光らせながら話せるだけ話してから、温かい沈黙がくるときもある。


ここまでは事実の話だ。そしてここからは仮説だ。


例えば、その会話の中で、あるいはその沈黙を破るべく、俺はこう発言したとしよう。
「今日蝉の鳴き声が聞こえたんです。もうすっかり夏ですね」
バー巡りで集めたデータを基に、それに対して相手は恐らくこう言うと予測できる。
「おう、よく知ってるね」
そして、内心は多分(データによる解析じゃないが、多分)「なに日本人振ってんだ、気持ち悪い」と思うのだろう。或いは「こいつわざと自分の豆知識を見せびらかしてるんだな、カッコ悪いな」と。


そうときたら、やはり自分から蝉の話をしない方が良さそうだ。でも逆に誰かが「蝉が聞こえるようになったね」とか、「桜が開花しましたね」とか言っても、「そうですね」と返事してはいけない。そうすれば「何でそんなことも知ってるの?」と訊かれるのがおちだから。「いや、本で読んだことがあるんだ。蝉の声が聞こえるってことは、春だってことでしょ」「へえ、凄いね。日本人よりよく知ってるんだ、凄い」なんて言いながら、実は内心俺を責めているに違いない。伝統的な食べ物や習慣、概念などに関連する表現をする人は、大体こう思って言っているのだ。「ここは一つ、外人に面白いもん教えてやろう」そんなときに、俺が黙って知らないふりをした方が、彼らは得意気な気持ちになれるし、いい雰囲気を醸し出すから最適だ。それに気付くまで何度も「そうですね」と答えてしまい、知らないときに「え?何のことですか」と訪ねていた。訪ねられたときの反応と、相槌を打たれたときの反応と比べてみれば、前者の方が圧倒的に好意的に見えた。まあ、当然の話だが。


とにかく、日本語で話していると、知るべきものと知るべきでないものを考慮して会話に臨んだ方がより快適な会話をつくると思う。


で、これは蝉のことと一体何の関係があるか。


要するに、俺はそんなことを知らない方が良いということだ。日本に来て一年も経っていない俺が知るようなことではない。知った方が不自然で、嫌がられる。実際、オトウサンとの初対面のとき、彼は俺と話して、俺が自惚れていると思ったそうだ(教えてくれたのは3ヵ月後だった)。俺が日本の文化のことを全く知らなかったら果たしてそうなったのか。言い換えれば、俺は日本語が話せなかったらそうなったのか。


俺はその会話で、何度も自分の日本語が下手糞だと主張していた。それが悔しいとさえ言った。そして(前のホストファミリーがそう教えてくれたように)、僕の日本語にはトゲが一杯あって、人をかっとさせるところがあると思うので、もし僕の言うことでむかついてしまったら、黙まって怒っていないで、僕を注意してくださいとさえ頼んだのだ。だが俺はそんなことを言うと、彼らはいいえ、そんなことはないですよ、とても上手ですよと言った。でも内心彼らは思っていた。「この人、なんて自惚れているんだ」どうやらその会話で、彼らは俺が自分の日本語力を自慢していたと勘違いした。そしてホームステイが始まって数週間後、俺が「そもそも」という絶対悪の呪文を口にして、オカアサンはそれにひどく傷ついた。そして俺に黙ってオトウサンのところに行ったという。するとオトウサンは彼女を慰め、1ヶ月後それについて二人は俺を非難した。声のトーンが悪かっただの、心が充分伝わらなかっただの、それはどれほどひどいものだったのか、何十分も俺に説明した。何故もっと早く言ってくれなかったのかとオカアサンに訊いてみると、「だって、あんなに傷ついたんだもん」というような言い訳をしただけだ。


オカアサン。貴方はまだ生きているのでしょうか。


話はとんでもない方向に行ってしまったようだな。要するにこういうことだ。


俺は日本語を勉強するのが好きで、つまらない人とコミュニケートするのを好まない。


うん、そうだな。多分そうだと思う。


やはり、そんなつまらないオトウサンに負けずに、蝉のことを調べよう。


…夏でした。


「セミ(蝉)は、カメムシ目(半翅目)・頚吻亜目・セミ上科(Cicadoidea)に分類される昆虫の総称。夏に鳴く昆虫として知られている。」(Wikipediaより)


(苦笑)全く、何でこんな馬鹿なことの為にわざわざこんなに書いたんだよ?!はいよ、俺の下らない愚痴、4ページ分。あったかいうちにどうぞ。毎度あり。


最初から書き直そう。


今日神社の前を歩いていたら蝉の鳴き声が聞こえた。もうすっかり夏のようだね。Little circle!