long island sound -52ページ目

何故

夜。外でそよ風に優しく靡かれた木々の間に張られた水着や洗濯。朝まで太陽に乾かれるだろうが、その前に僕は机で座り、勉強を続けていた。何故かと言うと、未だに自分の考えた事も解らない。確かに、こんな挫折感の時に、何故毎晩2、3時までやっていたか分からない。進化していると思っていた所為か、ほかのやる事がなかった所為か、或いは只アメリカから離れたかった。どうせ毎日あの情けなくて無価値の夢を追い求めていた。

不味い食事の日々に慣れた

海から出て、その家達から歩いて帰った。日の光に降り注がれ、帰ると体がずいぶん乾いたが、シャワーを浴びた。その後はロング・アイランドの先のオリエント・ポイントまでサイクリング。何時間も漕げ、あそこであった広い浜に座り、小石をぼんやりと投げていた。帰ってから、スーパーで買い物に行って来、料理した。毎日不味かったけど、何と無く僕の水浸しのライスやツナ缶に慣れた。食べてから、また泳いだ。海から夕焼けも満月も見た。同じ並ばれた家達、同じ帰り道、同じシャワー、日は皆同じように過ぎた。

涙も海もしょっぱかった

マリナの中に在った家の窓から見える海は毎日暖かかった。数年前に倒れた煉瓦工場の跡はまだ底に残り、水母いっぱいの海だったけど、結構好きだった。そして、マリナから泳ぐと、広くて深い大海も見える。毎日、浜伝いに並んでいた家達まで泳いだ。実は、その家達何年前も見たことがあった。あの時、6歳の僕は親父と一緒に小さい帆船に乗っていた。無謀な親父は、出発の所から離れすぎ、帆船が何度も倒れ、一時間後見知らない浜に打ち上げた。砂浜でしくしく泣いていた僕は、9年後再びあそこに打ち上げると夢にも思わなかった。

二年前の足跡

電車が太陽に浴びられる浜の軽快な波が聞こえるグリーンポート駅に止まれ、僕はドアから走り出す。毎週の火曜日、森を通り抜ける線路を速く歩き、昼前に家に着くように。町から離れ、沿線の景色は何年ぶりに人に触れなかった。

あの夏の間にロング・アイランドで森に囲まれていた海と近い家に独り暮らししていた。月曜日にニューヨークに戻ってきたが、それしかその日々をその家で伸びやかに過ごした。終に駅から家に着いたら、自習の教科書や辞書が入った鞄を床に落とし、冷蔵庫に入っておいたレモネードを飲んだ。今もその味は懐かしい。泳ごうと意味が含まれる力強いものだ。

LIへ

家を出た時、向こう側の通ってた小学校の上に下がってた夕焼けを見上げ、歩き出した。教科書やラップトップが入ってた重苦しい鞄を抱え、地下鉄駅に向かっていた。乗っていた間ドアを凝視していた僕の頭に浮かんでいた考えは一つしかなかった。もうすぐロング・アイランド。

ペン・ステーションで駆け回っていた人々は皆忙しくて携帯で話しながら焦っていたその世界はイヤホンの音に満ちていた。終に電車に乗ったら、窓の外の真っ黒い世で、偶に電灯の光の遊泳を眺めていた、昔と同じように。

ロンコンコマで乗り換え。悠長なLIRRの電車と再び。大晦日の終電で乗っていた一人。

まもなく終点のグリーンポート、二年前の夏の楽園。

あの海辺の駅に降り、田舎の星空の下で立っていた。冬に微かでも海の匂いに懐かしい思い出をいっぱいかけたてられた。