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HILARIOUS

12.18 東大前、最後に


4時間も演習問題を睨んで、改めて思い知らされた。日本の大学に入るのは簡単なことじゃない。アメリカの大学なんかとは比べ物にならない。やはりアメリカの大学に行くべきだったよな。やろうと思えば簡単だったのにな。


アメリカの大学への進学は大きく分けてSATの成績と出身校の成績によって決まる。SATというのは全国で毎年何度か実行されている進学適性試験で、数学と英語の基礎学力を評価する。でも冗談抜きで、本当に簡単なんだ。数学と言っても因数分解ぐらいができたら充分だし、英語だって本を読んだことがある人なら何も難しいことはない。1600点が満点で、1400点以上が取れたらアイビー・リーグだって夢じゃない。ちなみに俺は全く勉強せずに1430点が取れた。でも高校の成績は文字通り最悪だった。


テスト上俺は植物人間じゃないってことぐらいは明らかだった。つまり、普通にできるのに何故か努力しない、しかも高校に入ってからというもの成績が下がる一方の前途多難な学生を、俺の成績表が描写していると、高校の進学指導の担当が言った。彼女は俺にUMASSを推薦し、俺はそのまま出願した。マサチューセッツ州立大学。


でも振り返ってみたら、俺って、馬鹿だったよな。最低限の努力さえすればいい大学に入れたのに、つまらない意地を張り続けて結局はこうやってもう一度入学し直さなくちゃいけなくなってしまった。大体高校の成績って、実力なんかとは無関係なんだ。今物理をこうやって勉強しているけど、あの時先生に頼んだらAが貰えてマサチューセッツ工科大学にだって入れたかも。高校の物理ときたら、気骨のない新入りの先生と、裏に解答が載っていた教科書とで、どんなカボチャ頭でも簡単にAが取れる授業だった。勿論俺の成績はFだった。俺の頭はカボチャ以下。


馬鹿みたい。

どーん


3.27 上空

昨日遅くまで読んでいた所為で睡眠パターンがまた狂ってしまって、それをずらし直すべく今日も寝るのを我慢している。5, 6時ごろになればぐっすり眠れる。でもその時までは起きていなければならない。下手に勉強しようとすれば頭が混乱するだけだから、それよりじっと待っていた方がいいと決めた。あるいは言い訳した、というのはもっと正確な表現かもしれない。


時間を潰す為にまた本を手に取り、電気を消し、ベッドの上に寝転んで何時間か読んでいた。ダンス・ダンス・ダンスの上巻を読み終え、下巻を半分ぐらい読んでしまった。200ページ。昔はそれを勉強だと思っていた。今はそれが暇潰しということになっている。色んな言い方がある。


それを読んでいると時々一人の先輩のことを考えた。彼が一冊の本を読むのに、丸ごと一年もかかってしまったということを。この間やっと読み終わったそうだ。


そして漫画のことを思った。


昔は一種の勉強として漫画を読んだりしていた。それは内容も結構面白かったし、また日本語の勉強としても読む価値はあった。でも読むのは楽なものではなかった。一応外国語だし、当時は自分が中途半端な知識しか身につけていなかったから、ろくに理解できなかった。今でもそうだけれども、一年間くらい前はもっと酷かった。そして読むのに相当な時間もかかった。読むとそれなりに疲れてきた。つまり、あくまでもそれが勉強だったのだ。


その日々の中、日本から来た留学生の友達もたまに漫画を読むのを見た。そして切ない気持ちになった。やはり違うな、と。この人たちは勉強のことを忘れる為に読んでいるんだ。しかも俺より何倍も早く。滅入るよな。


ところで、この間何がなんだか分からなくなって一人でぼうっとしていた頃、暫くの間俺は毎日のように漫画喫茶店に行くようになった。3時間パックの料金を払い、ONE PIECEを片っ端から読んでいった。面白かった。それに色々といい勉強にもなった。でも実は基本的に勉強の為にやっていた訳ではない。現実逃避を図るべく読んでいたのだ。それで軽い達成感を覚えることができた。俺は進歩している、と。そのようにして俺は0.33という輝かしきGPAを入手した。

thatcher


3.20 散歩道


今便所に行ってきたが、その途中でふとある事実に気付いた。よくある話だ。便所の中では何か頭の回転を加速させて、視界をはっきりさせるようなものがある。特殊な臭いと一緒に空気を漂っているのだ。


俺にとってthatcherのような環境が最適だったんじゃないかって、さっき思ったんだ。今更そんなことを言ったって何の意味もないし、それに気づいたことで特に何かが変わるというわけじゃないが、とにかく勉強をするんだったらそのようなところが一番だろうと思う。


第一、友達と話せる。友達がいればどこでもいいという訳じゃないが、とにかくある環境を話すんだったらそこにある人々もやはり大事な役割を果たすことになる。役割という表現が適切かどうか(いささか冷淡すぎるのでは)は措いといて、とにかく一緒に飯を食べに行ったり、話したり、遊んだりするのが大切だろうと思う。皆と一緒に暮らすことができて楽しかった。


それが一番で、それに比べて他のことが単なるプラスαでしかない。門限はないし、空気がおいしいし、散歩も最高だ。夜まで食堂では殆ど食べ放題と変わりがない。味はあまり高く評価されていないが、俺にとっては普通に食えるし、今の俺の食生活よりはずっと増しだ。食堂が閉まると販売機しかないというのは困るけど、たいした問題じゃない。屋内プールも近くにあるし、夜中になると人気のない道をジョギングするのが楽しいし、健康も保ちやすい。それに比べたら今の状況があまりにも酷すぎる。門限の所為でジョギングはろくにできないし、近所にある屋内プールと言えば徒歩30分も離れたところしかないし、どんな時間でも先客で混んでいて気楽に泳げない。


でもthatcherで勉強しようとしていた時だってそれなりに切ない思いをしたけどな。友達が映画に出かけたりしたら羨ましくなって落ち込んでしまったりして。今振り返ってみると馬鹿みたいだけど、当時は些細なことで結構落ち込んでいたんだな。でもそう言えば、ロングアイランドでのひと夏以外は俺の人生のどんな時にだって同じようなものだったよな。中学校の頃は勿論、特に高校の頃が酷かったよな。


まあ、とにかくthatcherはいいところだった。でも残念ながらもう戻れない。皆が留学から帰ってきてもさっちーは卒業しているだろうし、光一が留学に行っているかもしれない。それに俺はもうあそこにはいられないんだ。いられたとしても一年が経ったら俺の知っている人の殆どは卒業してしまう。要するに俺のthatcherはもう存在しないのだ。悲しいというか、それが現実だから仕様がないんだよね。


日本で同じようなところもないだろうし、探す気にもならない。新しい友達を作ろうとも思わない。もう一人で勉強をすることにはいい加減に慣れている。留学は見事に失敗してしまったが、それが嫌なら今度日本に来るんだったらもっと勉強に集中することだ。近くにまともなプールがあるところに住んで、授業のとき以外はなるべく一人で修行する。身体を丈夫にし、勉強を重ねる。週末はバーに出かけて会話練習をする。特定された場所での限定された人間との触れ合い。平穏無事な生活。

その男は誰だ?シャフト!


3.25 いつもとおんなじ

そろそろ寝ようかと思って、パジャマに着替えてベッドの上に座り、壁に凭れ掛かって本を読んだ。相変わらず村上春樹だ。俺は村上春樹の作品の大半が大好きだ。決して彼の作品だからといって好きだという訳ではないし、他に好きな作家は一杯あるけど、今のところは村上春樹しか読んでいない。そもそも読書に注ぐ時間があまりないから、貴重な時間を費やすのであれば確実に面白い話を読みたい。そして彼の作品ならそれが期待できる。


ところで、村上春樹の作品に関して、俺は何故言い訳のような言い方をしなくてはならないのか?「確かに読みやすいは読みやすいもんな」と、俺は誰かに彼の作品が好きだと言い出すと、いつもこのような返事が返ってくる。そして遠藤周作を薦められる。こんなことがもう一年間も延々と繰り返されている。だが俺はまだ遠藤周作を読んでいない。俺は何も遠藤周作が嫌いな訳ではないが、いつも同じような人間に薦められるのが嫌いなだけだ。しかも必ず遠藤周作だ。ちなみに阿部公房とか、村上龍が好きだと言ったら相手は感心して「よくあんなムツカシイものが読めるよね」と俺のことを褒めやがる。馬鹿みたい。


でもとにかく村上春樹が好きだ。俺は読書によって何かある特定の要素を求め、彼はそれを見事に供給してくれる。そういう言い方をするとあまりロマンティックとは言えないが、仕方がないのだ。要するに俺がする読書とロマンティックな人がする読書とは目的が違うのだ。


村上春樹。ユーモアの感覚といい言葉遣いといい、俺にとっては彼の作品は最高だ。そして何よりも素敵なのは、村上の本を読むと書きたくなるのだ。書きたくて仕様がない。ほったらかしにしていたこのブログも、今日一週間ぶりに更新するのもそのお蔭だと言ってもいいかもしれない。


最近は代わり映えのない人生が続いているだけだ。毎日勉強をする。疲れると近所を散歩する。それが何日か続いたところで、俺は考えるのを止めることにした。完全思考停止。大体俺の頭の中には二つのことしか入っていないし、それらについてどれだけ考えたところで展開らしい展開は何もない。時間が経ち、足が疲れるだけだ。だから考えるのを止めた。


頭の中を整理する必要がある。今までの経緯を一から順番に解析して、何を求めてここまで来たか、そしてここから何がしたいかを考え直さなくてはならないのだ。そしてそれには相当な時間がかかるんじゃないかという気がする。だから今はできない。試験が無事に終わってからでも、ここでは考えたって無駄かもしれない。一度アメリカに帰って、ゆっくり時間をかけてこのカボチャ頭から答えを搾り出すのだ。

リライト


3.20 旭


色々なことでスケジュールがずれてしまって、夜に起きて、昼頃になるとベッドに入るという事態が何日か続いてしまった。そもそも勉強に集中しようとしているから、わざわざ人様が起きているような時間帯に起きていなくても平気だけども、太陽の動きがないと時間に関する感覚が微妙に鈍くなってしまい、勉強に悪影響を与えてしまう。徹夜すると、朝日が倦怠感を誘う。例え何時に起きたとしても、朝日を見て、身体はそれを本能的に停止信号として認識する。それを見た途端、勢いが消え失せ、急に目がちくちく痛み始める。食欲がまるでなくなり、おかげで元気が出ない。勉強上は最悪の状態だ。おまけに寮の門限は零時で、それ以降朝の6時までは出入りができないから、散歩も買い物もできなくなってしまう。だからこうなってしまったら、頑張って睡眠時間を上手くずらして、早寝早起きできるように矯正するのが一番だ。


だが、それは言うほど簡単なことじゃない。なにしろ寝不足は怖い。やることがあったら手を動かしているうちに時間をどんどん潰せるが、ただ就寝するのを延期するだけの為に起きていると余計に辛い。頭がぼうっとしていて勉強もできなければ読書もできないし、眠気と退屈が混じり合って、頭がおかしくなってしまうのだ。


でも、今ならもう少しの辛抱だけだ。後2時間ちょいで俺は眠れる。